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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6451号 判決

原告 石浜俊造

〈ほか二八九名〉

右二九〇名訴訟代理人弁護士 小牧英夫

大野康平

片山善夫

被告 株式会社毎日放送

右代表者代表取締役 高橋信三

右訴訟代理人弁護士 松本正一

橋本勝

主文

一、被告は原告らに対し、それぞれ別紙目録中請求額欄記載の各金員および右各金員に対する昭和四〇年六月一六日から支払済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、次の事実は当事者間に争がない。

1  被告は放送事業を営む会社であり、原告らは昭和四〇年五、六月頃いづれも被告会社の従業員であり、かつ、毎日放送労働組合の組合員であった。

2  被告会社は昭和四〇年五月二〇日午後一時三〇分翌二一日午前一〇時まで千里丘スタジオ勤務の組合員に対し、同日午後六時三〇分から翌二一日午前一〇時まで生駒送信所勤務の組合員に対し、それぞれロックアウトをなす旨通告して原告らの労務の提供を拒否し、次いで、同月二一日以後二五日までの間被告主張のように各二四時間単位でロックアウトを宣言して原告らの労務の提供を拒否した。

二、昭和四〇年春斗期間中における組合と会社間の団体交渉と争議行為などの経過

当事者間に争いがない事実(被告の抗弁3(一)「昭和四〇年春斗の経過」に対する原告らの反論2「本件ロックアウトの違法不当性」(一)(二)の主張参照)に≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

1  組合は昭和四〇年春斗要求として同年二月一五日の団体交渉において、会社に対し、回答日を三月一日と指定して「(イ)現行の賃金協定(すでに昭和三九年七月で有効期間満了)を再締結する。(ロ)年令給に一律八、〇〇〇円の賃上げを行う。(ハ)二号職(保安員、用務員その他これに準ずる職務)賃金体系を撤廃する。(ニ)査定を行わない。」などを内容とする賃金に関する要求書を提出したが、会社は右(イ)について安定賃金、職務給を基本とした新賃金体系を検討中であったため、その旨表明したのみで、右回答期限である三月一日にいたるも右に対する回答をしなかった。

2  組合は、三月一六日春斗臨時大会を開催して諸手当増額と勤務協定を追加要求することを決定し、さらに中央斗争委員会を設置し、引き続いて右追加要求のほか賃金協定、休日協定(週休制の確立、休日出勤の時間外割増に関する協定案。前年度からの継続審議事項であった)の四要求につきストライキ権確立の投票を行い同月二〇日いずれも約九〇パーセントの賛成でストライキ権を確立した。

組合は三月二三日右諸手当増額要求を会社に提出し(なお、右勤務協定については四月に入ってから要求を提出した)、三月二五日の団体交渉で休日協定に関する審議がなされたが、賃上げについては会社から安定賃金案を提出した程度で回答はなされなかった。

3  組合は要求貫徹のため前記三月二五日午後六時五〇分から七時まで千里丘スタジオ勤務の組合員による第一波ストライキを行い、その後組合は後記会社との団体交渉結果の推移に対応して五月二〇日までの間びら、ステッカー貼り斗争のほか五〇数波におよぶ全面ストライキ、部分ストライキと一、〇〇〇余名におよぶ指名ストライキを実施したが、右争議行為の態様は、別紙「組合の争議行為一覧表」記載のとおりであった。なお、右ストライキのうち予告のない、いわゆる抜打ストライキは五月八日のラジオ番組「午前六時の毎日新聞ニュース」のアナウンサーのストライキと五月一一日の千里丘スタジオ勤務組合員による正午から午後二時までのストライキの二回だけであり、他は事前通告によるものであった。

4  その間三月三一日の団体交渉で会社から賃金体系が提示されるとともに、これによる二、二六四円の基本給増額(内訳、定期昇給分一、八一二円、賃金体系のカーブ修正に伴う増加額四五二円)が回答され、休日協定の審議がなされたが、ベースアップの回答は出なかった。組合は四月三日職場斗争委員会において右会社回答を不満とし拒否する旨決定した。

その後、四月五日の団体交渉で賃金協定に関する審議がなされ、次いで、会社は四月七日の団体交渉でベースアップ一律一、六一〇円を回答(第一次回答)し、これにより、さきの三月三一日の回答分と合わせ定期昇給込みの賃金増額は三、八七四円になったが、右回答額は同業他社の妥結額に比し、そん色のないものであった。しかし、組合は右回答を不満としてこれを拒否した。その後四月一四日休日協定に関し、四月二三日休日協定、賃金協定に関し、四月二七日賃金問題、休日協定に関し、それぞれ団体交渉がもたれたが、宿泊手当増額(四〇〇円を五〇〇円に)と休日手当割増率アップ(一時間につき一・三を八時間を超える一時間については一・四に)が回答されただけで、賃上げについては会社は前記第一次回答をいわゆる一発回答であり、かつ最終回答であるとして、これを固執し、賃上実施期についても交渉妥結月とする旨主張し、四月一日から実施すべしとの組合の要求を拒否したまま双方に歩み寄りがみられず、会社は組合からの団体交渉の申入れならびに社長の団体交渉への出席要求に対して、当時頻発したストライキを理由に右申入れに応ぜず、五月に入った。

5  組合は右のように団体交渉の進展がみられないため、五月四日中央斗争委員会を開催し、前記会社の態度に抗議するため強力な斗争体制を組むことに決め、以下の争議行為が発生した。

「毎日マラソン」事件

五月六日会社は同月九日放送予定の毎日マラソン放送のテストを実施すべく、千里丘外録準備室前に実況中継車、電源車など右放送用車輛五台を整えていたところ、組合は同日午前九時五五分から右放送スタッフに対しストライキを行い右車輛周辺で数十名の組合員によりスクラムを組み、あるいは坐り込むなどしてピケッティングを行った。

会社は右実況中継を全国主要ラジオ放送事業会社のキー局として行うことになっており、昭和三九年暮から多額の費用をかけて放送準備をしていたもので、右マラソンレースにはオリンピック優勝者アベベなどの参加もあって一般的に強い関心を持たれていた。会社側は職制を通じて中継車などの返還を再三請求したが、組合員により拒否された。そこで会社は五月七日組合および組合員に対し右ピケッティングは違法である旨警告したが、組合はピケッティングを解く条件として団体交渉の再開を要求したところ、会社側は平穏な状況でなければ団体交渉に応じられないと主張したため、双方対立したまま放送当日の五月九日まで約七五時間にわたり部分ストライキによる組合員のピケッティングが継続され、そのため会社はやむなく中部日本放送から中継車一台を借り受け右実況中継を行ったが、右放送内容は規模において縮少を余儀なくされ、質的に不満なものになった。

「ママの育児日記」事件

組合は五月六日正午から午後一時までの間千里丘スタジオ勤務の組合員に対し全面ストライキを実施し、さらに同日午後一時から放送予定のテレビ番組「ママの育児日記」の制作スタッフにつき午後一時三〇分までの間ストライキを継続した。右番組は社会教養番組であり、また同日は子供の日にちなんだ番組を予定していたので、会社は管理職の手でその生放送を実施しようとしたところ、スタジオの副調整室に組合員が入り込み、ピケッティングを行って管理職による右業務を阻止しようとした。そのため管理職らは同室での機械操作ができなかったので隣接スタジオからカメラを導入して放送することにしたが、右カメラケーブル引込みによりスタジオ西側出入口扉に隙間を残した。ところが、これを察知した組合員らはその扉附近で携帯マイクを用いるなどしてスタジオに向いシュプレヒコールを行ったため、放送途中管理職が写真撮影のため扉を開いたことも加わって右放送番組に雑音が混入し、その放送効果を毀損した。

「錠前取付工事妨害」事件

会社は五月八日午前一〇時頃前記のとおり組合員らが毎日マラソン実況中継車などに対しピケッティングを行っていた車庫に隣接するスタジオブロック建物二階スロープ非常口に施錠すべく錠前取換工事をしようとしたところ、同所は通常非常口として使用されており、施錠されることが少なかったことなどの理由から、右ピケッティングに待機していた組合員が同扉附近でピケッティングを張り右取付工事を阻止した。会社は職制により説得を続け、錠前取付を妨害しないよう要求し、また右ピケッティングは不当であるとして即時解除を警告したが、組合員らは応じなかった。そこで、会社は警察官の出動を要請したが、組合員は右警察官の説得によりピケッティングを解くにいたり、同日夜になって会社は錠前を取り付けた。(しかし、右ピケッティングにより主調室内などにおける業務に支障をきたす具体的危険が存在したことは認めるに足りる証拠はない)

「鉄扉乱打」事件

組合は五月一一日正午から午後二時までの間千里丘スタジオ勤務の組合員につき全面ストライキを実施し、国鉄千里丘駅までデモを行ったが、午後一時三〇分頃帰社し、一旦解散した。ところが組合員および毎日放送映画労働組合(毎放映画は被告会社の子会社で、被告会社のフィルム現像、編集、プリントタイプ印刷などを業とし、また毎放映画の役員は被告会社の役員を兼ねる者が多かった)の組合員二、三〇名が、総務局前ロービに滞留し、同ロビーと総務局事務室をむすぶ通路にある鉄扉(防火壁をかね厚さ約五センチメートルで中は空洞である。ストライキ中は施錠されている)を約一五分間にわたり靴のかがとなどで連打した。

会社は五月一二日組合に対し右事件について会社および組合と直接関係ないものの介入によって無用の紛争を惹起することのないよう注意を促すとともに、外部団体が争議特に違法な争議行為に参加した場合、右外部団体のあらゆる行動につき組合の諒承があったものと判断して厳重な措置をとる用意がある旨警告した。

「第二次回答」

会社は五月一二日組合に対し団体交渉を申し入れた結果、五月一七日ぶりに団体交渉が開かれ、会社はさらに二〇〇円のベースアップを上積み回答し、これにより賃金増加額は四、〇四七円となった。組合は三年ぶりに一発回答を乗り越えたことに意義を認めながらも、同日以降引き続き職場集会において右会社回答につき検討を加えた。その結果組合の関心は回答額に不満を示しつつも、むしろ査定撤廃問題に移行した。

会社の右第二次回答後の争議発生状況をみると、本件ロックアウトが行われた五月二〇日までの間千里丘スタジオ関係では五月一七日午後一〇時から翌一八日午前一〇時にかけて実施されたテレビドラマ「集金旅行」のスタッフに対するものだけであり、その間の指名ストは職場集会や代議員会への出席など組合業務に従事するための者を含む約七〇名であった。

なお、会社は五月一四日組合の抗議もあって、建物内各所の扉の施錠を解いた。

「VTR室占拠」事件

五月一六日、ラジオ・テレビオンエアーセクション輪番勤務(一六時間各日勤務で勤務時間は午後六時から翌朝一〇時まで)の組合員全員(約二〇名)は午前八時二二分から一〇時までの間、会社が争議中建物内の扉に施錠したこと、および会社の第二次回答が査定撤廃を認めず、輪番勤務に対する差別を容認する不当なものであるとして、抗議のためのストライキを行い一斉に職場を放棄しVTRで職場集会を開いたため、午前八時三〇分から一〇時に放送予定のVTR番組三〇分もの三本の放送が中断した。その間初めの約三〇分は放映不能となり、残りの一時間余は管理職によって音楽なしのテスト・パターンが放映された。会社は従来から職場における集会を禁止していたが、同月一八日あらためて組合にその旨通知した。(なお、会社は右ストライキがいわゆる抜打ちのものであると主張するが、≪証拠省略≫によるも右主張を肯認するに足りず、他に右事実を認むべき証拠はない)

「総務局乱入」事件

組合は会社の第二次回答を検討した結果これを拒否することを決定し、民放労連の統一行動日である五月二〇日正午から午後一時三〇分まで、警察の争議介入反対、会社代表者の団体交渉への出席、誠意ある回答を要求して全国ストライキを行うことにしたが、五月一五、一六日京都市で開催された民放労連大会で、被告会社に対し労働争議に警察力を介入させたことに対する抗議声明が採択されたので、右ストライキの際総務局奥にある役員室へ赴き会社役員に右抗議声明文を手交することになった。なお、同日は毎放映画労組もストライキを実施し親会社である被告会社役員に争議の早期解決などを内容とする要求書を提出することになっていたので、統一行動をとることが予定されていた。

一方、会社は事前に組合の行動予定を察知し、警察官の出動を要請するとともに、午前一一時三〇分頃から社内各所の扉を閉鎖し始め、総務局勤務の組合員に対し正午前には同局内から退去するよう指示した。そこで、右社内の様子を検討した組合は、ストライキの実施を予定より五分くり上げることとし、午前一一時五五分頃に石浜委員長ら数十名の組合員と毎放映画労組の組合員二、三〇名が総務局前玄関ロビーに集合し、宇崎書記長が総務局内人事部長佐々木にストライキ通告を終え同局内から退出するや、役員室に赴くために石浜委員長ら数名の組合員を先頭につぎつぎ総務局内へ入室した。ところが同室内にいた管理職、私服警察官らは扉を閉めようとし、あるいは佇立するなどして組合員の入室を拒んだので、玄関ロビーにいた組合員はこれに抗議し同室に詰めかけ、なお役員室に赴こうとしたが管理職らに阻止され同室内に滞留したが、肉声ないしは携帯マイクで退出方を命じる管理職の声とこれに抗議する組合員のシュプレヒコールにより同室内は騒然となった。そこで石浜委員長らは役員室に赴くことを断念したが、警察介入に対する前期抗議決定の趣旨を全うするため、同局内で携帯マイクを用い役員室へ向って抗議声明文を読み上げ、毎放映画労組組合員もこれにならった。

ところが、その際組合員が同室内に私服警察官が導入されていることを見付け石浜委員長らは引野総務局長に対し、警察官導入の理由を問詰して抗議中、午後零時三〇分頃会社は別室に待機させてあった制服警察官十数名の出動を求め組合員の退去を要請した。組合員らは警察官との間で紛争を起すことは得策でないと判断した石浜委員長の指示により午後零時三、四〇分頃同局内から退出し玄関ロビーで集会を行った後、食事時間でもあったことから自由行動を認めて解散した。同日組合はストライキ期間の延長や部分ストライキの実施を予定していなかった。なお、総務局内は正午から午後一時まで昼の休憩時間とされているが、同日は公認会計士による監査が行われていた。

6  本件ロックアウト

会社は右事態に直面して同日午後一時二五分頃組合事務所にいた宇崎書記長に対し電話で午後一時三〇分から千里丘スタジオ勤務の組合員につきロックアウトを行う旨通告したが、ストライキ終了の時間が迫っていたため、放送現場(オンエアー現場)総務、経理局関係に勤務する組合員らは、職務引継のため定刻五分前には職場復帰の必要があったので、当時会社が施錠して締め切っていた扉の前で待機し中にいる管理職に対しスタジオブロックに通ずる鉄扉の解錠を要請し、また前記以外の職場の組合員らの中には職場が開放されていたため職場に復帰し就労態勢に入っている者もあった。

そこで、宇崎書記長の連絡により前記ロックアウトの通告を知った石浜委員長らは玄関ロビーで集会を開き業務を続けられる職場ではそのまま業務を継続すること、職場復帰できないところでも就労の申込をなし待機を続けることを指示し組合員らは右指示にしたがった。

会社は同日午後四時頃になって、組合に宛て文書をもって「同日午後一時三〇分から翌日午前一〇時まで「千里丘スタジオ」勤務の組合員を対象に(生駒送信所勤務の組合員を対象に五月二〇日午後六時三〇分から翌日午前一〇時まで)ロックアウトを行う。この期間組合員が会社の許可なくその事業所に立ち入ることを禁止する。現在立入中の組合員は直ちに社外に退去されたい」旨通告した。同日午後六時始業の輪番勤務者も定時に出社し、組合の指示のもとに玄関ロビー、廊下階段附近で待機を続けたが、会社側の再三にわたる退去申入れに応じなかったので、会社は警察官を導入して同日午後九時頃同所に滞留していた組合員を社屋外に排除させた。当夜組合員らは社屋附近にテントを張って宿泊待機していた。会社は翌二一日から二四日まで毎日午前一〇時にそれぞれ翌日午前一〇時まで前記組合員を対象としてロックアウトを行う旨ならびに会社の許可なく事業所に立入りを禁止する旨文書をもって組合に通告した。この間組合員は後記のように本件ロックアウト解除にいたるまで組合の指示にしたがって毎日出勤時間に出勤して社屋前の芝生附近に集合し、何時でも就労できるよう待機をつづけ、組合は会社に宛て文書で就労の申入れを継続するとともに団体交渉の再開をも申し入れていた。

7  春斗の妥結

(一)  その間五月二三日事態収拾のため会社の申入れにより組合との間に団体交渉が開催され、その席上会社側は、過去二ヶ月以上の間に団体交渉で会社組合双方とも全ての点につき論議をつくし会社も譲歩できるだけ譲歩したものと考えるから、回答額に不満があっても事態解決が急務であるから、組合も不当と思われるような実力行使をさし控え、団体交渉による解決を希望したい。若し組合側にその意思があればロックアウトを解除する旨述べたのに対し、組合側は先きの団体交渉で右回答を拒否し、更検討を要望した筈だから具体的な提案がない以上右申出には応じられない。組合員が納得する額が出るまで実力行使に訴えることもありうる旨述べたため、同日の団体交渉は約二〇分間で物分れとなった。

(二)  ところが、五月二四日夜会社代表者高橋の要望で、同社表、永松専務と石浜委員長ら組合三役との間で非公式の会談がもたれ、春斗全般につき話し合った結果、高橋社長は団体交渉への出席とロックアウトを翌二五日午前一〇時限り解除することを表明し、翌二五日午前一〇時にロックアウトは解除された。

(三)  五月二八日高橋社長、永松専務出席のうえ団体交渉が開催され、会社は固執していた査定問題につき譲歩を示し「向う一ヶ年限り考課点が平均未満の者にも標準昇給額を保証する」旨回答し、その後賃金協定を中心に数回の団体交渉を経て、六月一九日賃金協定の仮調印をみ、その妥結内容は(イ)賃上げ額は四、〇七四円(第二次回答どおり)。(ロ)人事考課は行うが向う一ヶ年無査定とする。(ハ)ベースアップを四月一日に遡って実施するなどであった。

8  争議中における会社の操業、争議対策などについて

(一)  会社は昭和三六年頃から管理職の非組合員化とその増員をはかり、昭和三六年夏季斗争時に従前組合規約上組合員となっていた課長につき非組合員とすべき旨組合に通告し、課長全員二〇名が組合を脱退するにいたり、次いで昭和三七年春斗直前に会社は組合員より相当数の者を課長に昇格させ、さらに、昭和三八年の春斗直前には、新たに課長待遇職を新設して同人らが組合を脱退した結果本件昭和四〇年の春斗時においては組合員約六〇〇数十名に対し約二〇〇名の管理職を擁していた。会社は過去の争議に際しては右管理職を使用して組合員らの放送業務を代替させて来た。また昭和三八年春斗前には千里丘スタジオ内役員室からオンエアーブロック(送信所へ送波する機能をもつ)へ直通する通路を新設し、周囲を金網で囲って外部から通行妨害ができないようにし、また同ブロック西側に扉を設けて争議時においてはこれに施錠することにより組合員の立入りを阻止し、管理職による操業の確保をはかった。

昭和四〇年春斗期間中においても会社は四月二三日頃にはスタジオブロックにある多くの扉に施錠し、五月一〇日には大部分のスタジオ扉、スタジオに通ずる廊下の扉および非常口に施錠し管理職を配置して組合員の立入りを点検したこともあった。

(二)  昭和四〇年春斗期間中において、ストライキに際しては管理職による操業が行われ前記五月八日午前六時から放送予定のラジオ番組「毎日新聞ニュース」につき、組合が会社に対し担当アナウンサーの指名ストライキ実施の事前通告を怠ったため瞬時放送が中断し、五月一二日テレビ部門オンエアーセクションが会社において争議対策として扉に施錠したことに抗議して部分ストライキ(午後一時四二分から五一分まで)を行った際五分間テレビ番組放送が中断し、さらに、前記五月一六日早朝職場集会によって午前八時三〇分から一〇時まで番組放送の中断を生じた。

(三)  本件ロックアウト期間中も業務は管理職によって継続された。

三  以上認定の昭和四〇年春斗の経過と組合の行った争議行為の態様などにてらして、本件ロックアウトが正当であるか否かを判断する。

1  ロックアウトは、使用者が労働者の争議行為に対抗するための手段として労働者の労務の受領を集団的に拒否することによって自己の主張を貫徹するために行う争議行為である。かかる使用者の争議対抗行為が許される根拠は、要するに、労働者の争議権保障が労働力の集団的取引関係を承認し、その集団的力の対抗によって解決することが制度的に認容されている以上、労働者が右争議権を行使する限り使用者もまた前記集団的取引の地位に立たざるをえないところから、争議権の保障のない使用者にも個別的契約関係上の責任を問われることなく、その対抗行為が容認されるべきものとする点に求められる。

右のようにロックアウトが使用者に容認されるとしても、その行使が争議権の行使に与える甚大な影響を考慮するとき、それが容認される場合の要件すなわち正当性の要件は厳格であるべきことは当然であって、労働者の争議行為によって蒙る使用者の損害が、右争議行為との関係で使用者の受忍すべき限度をこえているものと判断される場合にはじめて許されるものと解すべきである。

これをロックアウトの法的効果として認容される労務の受領遅滞の免責すなわち賃金支払義務を免れるために必要とされる要件についてみれば、ロックアウトが本来争議行為による危険の分配として、労働者の賃金喪失に対し、使用者が一時的生産停止(利潤の喪失)をかけることによって労働者の争議行為に対抗する点にかんがみ、争議行為の結果使用者の賃金負担に見合わない労働力が提供されるため、使用者の負担が受忍できない程度に過重となった場合でなければならないと解するのが相当である。これを例えば、部分(時限)ストライキや波状ストライキの結果、関連業務に麻痺を生じ、あるいはストライキとストライキの間に提供される労務の成果が著しく減殺され、ないしはストライキ解除後の業務再開に多大の経費と時間のロスを伴うなど、ストライキに参加しない残余労働者に対し使用者において無用の賃金負担を余儀なくさせるような場合をなすものというべきである。

2(一)  まづ、本件争議行為の態様をみると、三月二五日から本件ロックアウトが行われた五月二〇日までの間に行われた千里丘スタジオ勤務の組合員全員による全部(時限)ストライキ約二〇波、同スタジオ中の各部門などに対する部分(時限)ストライキ二〇数波、アナウンサー、番組編成スタッフによる一、〇〇〇名を超える指名ストであった。(右ストライキのうち事前通告のないものが僅かであったことは前認定のとおりである)ところで、≪証拠省略≫によると、放送企業の特殊性からして、ストライキによる影響としては、番組放送までに提供された労務に対して支払われた対価、出張旅費、出演料など経費総額の喪失が労働者の失う賃金カットとの対比において甚しい不均衡を生ずること、放送過程で実施される部分(時限)ストライキによってその放送全体の商品としての完成が損われる結果を生ずることが認められる。しかしながら、労働者が自らの犠牲損失をできるだけ少くして使用者に最大の犠牲損失を蒙らせる手段として本件のような部分、指名ストライキないしは波状ストライキに出ることも正当な争議権の行使として認められる以上、被告企業の特殊性からして右のように、ストライキ参加者の失う賃金カットと対比される当該労務不提供自体に起因する使用の損失とを比較衡量して労使の蒙むるべき損害の不均衡を根拠にロックアウトを許容することは、組合の争議権行使を時に封殺する危険につながるものであるから、組合の争議行為によって、被告が受忍すべき限度を超える損害を蒙ったか否かは、さらに本件争議の具体的事情に即して検討を要するところである。会社放送業務に甚大な損害を与える争議行為の一形態として被告が掲げるいわゆるミニストライキは、本件春斗中において組合により行われた事実のなかったことは≪証拠省略≫により明らかである。

本件において組合の前認定の争議行為特に部分ストライキ、時限ストライキのくり返えしによって、当該ストライキ部門以外の関連部門の業務を麻痺させ、あるいはストライキとストライキ間に提供される労務が被告に対してほとんど成果をもたらさず、ないしはストライキ解除後の業務再開に多大の経費と時間のロスを伴うなどに過重な損害が発生したことについては、≪証拠省略≫によるも未だこれを十分に肯認させるに足りないところである。

(二)  他方、前認定のように、被告会社においては過去数年間にわたって争議発生時を契機に管理職(非組合員)の増員をはかり、同時に争議中の操業に対する組合員の阻止行為を妨ぐための会社施設を整え、人的、物的両面から争議対策を強化してきたもので、本件の争議中においても、ストライキ発生と同時に放送業務の中心設備であるオンエアーブロックなどへの組合員の立入阻止の処置を講じて管理職による代替操業を確保継続している。

もとより、使用者が争議中本件のように非組合員(管理職)によって操業することは、事実上放任された行為というべきであるが、それが労働者の争議行為に対する対抗行為としての意味をもつ以上、同じく対抗行為として容認されるロックアウトの正当性を判断するに際しては、被告会社が争議中に操業を行っていた事実は果して被告に受忍すべき限度を超えた損害が発生したか否かを判断するにつき看過できない点というべきであり、≪証拠省略≫によって認められるとおり、前記管理職による代替作業が放送内容につき時として質的低下をもたらし、あるいは代替番組の放送を余儀なくされる場合があったことを勘案しても、少くとも、争議行為によって被告が蒙るべき損害を軽減できたことは容易に推認できるところである。

(三)  次に、被告が組合の争議行為中不当あるいは違法なものとして指摘するものについてみるに「毎日マラソン」事件はストライキ中の会社管理職による操業に対抗して、ストライキの実効をはかる目的で行われたピケッティングであり、会社がピケッティングを理由に組合の団体交渉の申入れを拒否して事態を根本的に解決する態度を欠いていたこと、右ピケッティングに組合員らの暴力ないし脅迫行為を伴ったことも認められないことなどを勘案すると右ピケッティングをもって正当な限界を逸脱した争議行為とはいい難い。

「ママ育児日記」事件もまた、会社管理職の代替操業に対抗するためにとられたピケッティングであって、組合員が放送内容に雑音混入の事態を生ずることを予知しながら、その結果の招来に一因を与えた点行き過ぎのそしりを免れないとしても、右ピケッティングを直ちに違法と評価することはできない。「錠前取付工事妨害」事件は、会社の争議対抗行為への抗議行動と評価すべきもので、組合員のした右工事阻止の態様が長時間かつ、しつようにわたった点で多少非難の余地はあるとしても、未だ違法な争議行為とは断じ難い。

「鉄扉乱打」事件は争議行為の正当性の範囲を逸脱したものというべきであるが会社業務に多大の支障を来たしたものとはいえない。「VTR室占拠」事件は本件の争議中一番長時間にわたって放送中断を惹起した部分ストライキとして重視すべきものであるが、右ストライキ自体が違法な争議行為と認めるに足りない。

「総務局乱入」事件についてみるに、当日の組合員の行動は争議中休憩時間を利用して争議に関する抗議を行うことを目的としたもので、職場占拠を当初から意図したものではなく、職場滞留と一時的に喧騒状態を惹起したのも、組合の抗議を無下に阻止し警察官を導入したことにより組合員らをことさら刺戟した点において会社の措置に誘発されたきらいがある。組合と統一行動に出た毎放映画労組の組合員の行動も、親会社の地位にある被告会社に対する争議解決のための要望を行うことにあったことからみて、この点につき組合を非難することは当を得ないところであって、休憩時間約四〇分間における組合の右行為をもって争議行為の適法性をこえたものとはいえない。

被告は右事件の発生を、本件ロックアウトを実施するにいたった契機として重視するが、先きに認定したような右事件発生の経緯や同日ストライキ延長の予定がなかったこと、ストライキの時限終了とともに組合員の一部は既に就労態勢に入っていたことなどの事情にてらすと、右事件の発生を契機として、組合員および外部団体による職場占拠、放送事業の遂行に支障を与える争議行為の発生が予測されたとする被告の判断およびこれに副う≪証拠省略≫は直ちに首肯するに足りない。

以上のとおり、組合の前記争議行為の中には一部行き過ぎや非難に値するものが散見するにすぎないから、組合の不当かつ違法な争議行為に対抗するため本件ロックアウトを容認する根拠は薄弱といわねばならないし、また、叙上の争議行為によって、通常発生すべき使用者の損害を超えて、前記使用者の受忍すべき限度を超えた損害が発生したことを認むべき資料はない。

(四)  さらに、別紙争議行為一覧表によっても明らかなとおり、本件春斗中におけるストライキの頻発、激化は昭和四〇年五月一〇日以前の時期に集中しており、このことは先きに認定した組合と会社間の団体交渉の経緯と比照するとき会社がいわゆる一発回答を固執して譲らず、組合の要望する団体交渉への会社々長の出席にも考慮を払わなかった一方、管理職を動員してストライキ中の操業を行ったため、組合としてはストライキの実効をあげるために、やむなく強力な対抗姿勢に出る外はなかったことに起因するものと認められる。現に会社が前記第二次回答を出した同年五月一四日以後組合のストライキは激減し、本件ロックアウトが行われた五月二〇日までの間千里丘スタジオにおいては同日分を含めて全部ストライキ二回と部分ストライキ一回を数えるだけであった。

(五)  なお、前認定のように会社は本件ロックアウト中も引き継ぎ管理職による操業を継続していたもので≪証拠省略≫によると、会社の管理職は前記争議中その代替業務に従事するにつき組合の全部または部分ストライキに備えて待機の態勢をとらねばならなかったため長期の争議に対処して心身の疲労を招くにいたったこと、そこで、右疲労を軽減し、管理職のみによって計画的に作業班を編成し輪番制による代替操業を可能にすることが本件ロックアウトを行った理由の一つであったことが認められる。

ロックアウトは、本来労働者の賃金喪失による損害と使用者の操業停止による利潤の一時的喪失とが、均衡を保つものとせられる点に、対抗行為として容認される根拠があるわけである。したがって、使用者のロックアウト中における操業は右ロックアウトの構造からみても、使用者の対抗行為の地位を不当に強化し、労働者の争議権保障の趣旨を没却する危険を含むものである。したがって、被告の右操業がストライキ中におけるそれと同様の意味合いから容認されるものと直ちにいいうるかは大いに疑問の存するところであって、少くとも本件ロックアウトが、前認定のようにストライキ中における管理職による操業体制の強化確立を一つの重要なねらいとしてなされた事実は、ストライキによって被告の蒙むるべき損害の軽減効果を一層増大させたものと評価すべきものである。

3  以上判断したところによれば、本件ロックアウトは組合の行った多数回にわたる全部(時限)または部分(時限)ストライキに対抗するため行われたものであるけれども、右ストライキの頻発激化の原因については、被告会社の団体交渉における態度にもその一端の原因があったものと認めざるをえないし、本件ロックアウトが実施された時期においては、組合の争議行為も団体交渉の推移に照応して激減の時期にあったこと、しかも会社は右争議中を通じ、管理職による操業を継続して右ストライキによる損害の軽減を可能にし、さらに、本件ロックアウトによって、右管理職による操業の強化確保を実現したものにほかならず、右争議行為によって被告の蒙る損害がこれを受忍すべき限度を超える過重のものであったことにつき、これを肯認すべき的確な資料の存しないところである。結局本件ロックアウトは、組合の争議行為との関連で被告会社が受忍すべき程度を超えた損害を蒙る場合には該らないものと断ずべきものであって、正当性を欠くものといわねばならない。

四  原告らの賃金請求権

1  本件ロックアウトが正当なものでないことは既に判断したとおりであり、原告らが右ロックアウト期間中労務提供の意思を表明して被告に就労を要求していたことは先きに認定したとおりであるから、被告は原告らの労務受領遅滞の責に任ずべきことは明らかである。

2  被告会社は毎月二五日に当月一日から末日までの間の一ヶ月分の基本給を支払う定めとなっているが、原告らの六月分の賃金から原告らの各基本時給(基本月額を一ヶ月に労働すべき日数二五および一日に労働すべき時間数七で除して算出)(別紙目録「単価」欄記載の額)に同人らが右ロックアウト期間において労働すべき時間数(同目録「カット対象時間」欄記載の時間数)を乗じて算出した金額(同目録「請求額(カット額)」欄記載の各金員)を控除したことは当事者間に争がないから、原告らは被告に対し同目録「請求額(カット額)」欄記載の各賃金請求権を有すること明らかである。

3  被告の時効の抗弁について

≪証拠省略≫ を総合すると、原告らは弁護士小牧英夫に対し本件賃金請求訴訟事件を委任し、同弁護士は原告らを代理し、被告会社に対し昭和四二年五月一九日到達の書面(なお同書面の若干の誤記を同月二五日到達の書面で訂正した)で右書面到達後五日以内に代理人事務所まで持参もしくは送金して支払う旨催告したことが認められ、同年一一月一八日原告らが本訴を提起したことは記録上明らかである。

そうすると、原告らの本件賃金債権の消滅時効は中断されたものというべきである。

五、結論

よって、被告に対しそれぞれ別紙目録中請求額欄記載の各金員および右各金員に対する弁済期の翌日である昭和四〇年六月二六日から右支払済にいたるまで、年五分の割合による金員の支払を求める原告らの請求はすべて理由があるから、これを容認し、民訴法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤平伍 裁判官高山健三、同木村奉明はいずれも転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 斎藤平伍)

〈以下省略〉

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